
説教の年間テーマ=わたしのすべてを知っておられる神
キリストの聖体(C年)の福音=ルカ9・11b~17
2025年6月22日
世界各地の観光地が抱える深刻な問題として、「オーバーツーリズム」が問題化しています。たとえば、スペインのバルセロナ市では、同時に、深刻な社会問題となっている住宅価格の高騰や生活コストの上昇など、住民の生活環境に負の影響を与えています。そもそもオーバーツーリズム、これは、観光客の急増により、地域住民の生活の質や観光客自身の体験の質が著しく低下する現象を指します。(「リジェネ旅」より)
バルセロナ市は、観光客による影響を軽減するため、複数の革新的な政策を導入しています。2024年10月からは観光税を大幅に引き上げ、五つ星ホテルの宿泊者に対して1泊あたり6.75ユーロの課税を実施。この税収は、インフラ整備や持続可能な観光の推進に活用されています。
そして、観光戦略の展開により、30%以上の観光客が市中心部以外のエリアを訪れるようになり、観光収入の地域分散化に成功しています。
さらに、2028年までに全ての観光用アパートのライセンスを廃止する計画を発表し、住宅供給の確保と家賃高騰の抑制を目指しています。クルーズ船に関しても、特定のターミナルへの入港制限を実施。環境負荷の軽減を図っています。
人は国を問わず、「限定」には目がないのではないでしょうか。どういうことかといえば、季節限定スイーツやイベント限定グッズ、その時、その場所でしか得られない特別感に惹かれてしまいます。時間や費用をかける旅行となるとなおさらのことでしょう。絶景や新鮮なグルメ、レジャーと存分に「現地ならでは」を味わいたいですよね。有名な観光地は、こうした「ならでは」を生かした観光資源に力を注いでいるようです。

わたしたち信仰者は、この「ならでは」の限定品を持ち合わせているでしょうか。わたしたちの師・イエスは絶品の「ならでは」を持ち合わせていました。だからこそ群衆が身近に迫ってきました。いつもイエスのまわりには誰かがいました。群衆がいました。弟子たちがいました。今日の福音でも、五千人の人々に囲まれ、その集まりを解散することなく、食べ物を与える事態になったのです。ルカによる福音書です。
イエスの絶品な「ならでは」は何かと問えば、ご聖体が制定された夜のイエスの気持ちにあるのではないでしょうか。
それは、イエスを取り巻く人々、弟子たちの悪と罪が表に露わになった夜でした。ユダの裏切り、ペトロを含む弟子たちの弱さが暴露されてしまう夜でした。すなわち、イエスが兵士たちに捕らえられるや否や、イエスを捨て、逃げ去ってしまったのです。
他方、イエスの側に立ってみると、人間の悪と罪が極みに達した夜であると同時に、人間の悪にズタズタにされながらも、その人たちのためにご自分の心を閉ざすことなく、憎むこともなく、むしろ逆に、その人々のためにゆるしを願います。ご自分の上にのしかかってくる苦しみのすべてをささげて、ご自分を苦しめる人々の救いを願うのです。
ご聖体は地上のいっさいの悪と罪を受け取りながら、それらをゆるし、つつみ込んでしまわれたイエスの愛の結晶なのです。
今日の福音で、夕暮れが近づいたとき、12人の弟子たちは「群衆を解散させてください」とイエスに頼みます。それは群衆が自分たちで宿を取り、食事を見つけるためです。「人里離れたところ」では、それはかなわないからです。だから解散させる必要があります。そのような彼らに向かってイエスは「あなたがたが彼らに食べ物を与えなさい」といわれます。このイエスの指示は、彼らには無理な注文だと映りました。「五つのパンと二匹の魚」しかない弟子たちにとって、五千人の群衆には足りないというのは目に見えています。
それでもイエスは解散させるどころか、「イエスは五つのパンと二匹の魚を取り、天を仰いで、それらのために賛美の祈りを唱え、裂いて弟子たちに渡しては群衆に配らせた。」のです。これで五千人の群衆が満腹するはずはないんですが、どこにも「五つのパンと二匹の魚」が増えたという記述は見当たりません。にもかかわらず「すべての人が食べて満腹した。そして、残ったパンの屑を集めると、十二籠もあった。」のです。どう考えても、増えなければ満腹することはあり得ませんよね。「パン等が増えた」という記述がないということは、ルカは「増えた」という事実に関心がなかったからです。「弟子たちに渡しては群衆に配らせた」というところに関心を向けるべきであると促しています。
つまり、「五つのパンと二匹の魚」は弟子たちの現実です。自分たちの力だけに頼るときに、その先には絶望が待っています。しかし、それを一旦ありのままにイエスの手に委ねてから再び受けるなら、すべてが満腹し有り余るほどの豊かさとなります。
イエスはその優しさと赦しと愛を与え続けるのです。今もなおご聖体を通して。
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