2017年説教の年間テーマ「神のふところ」
【神のふところは限りなく大きい】

年間第16主日(A年)の説教=マタイ13・24~43

2017年7月23日

坂本光司著「日本で一番大事にしたい会社」から

2008年3月に一冊の本が出版されました。「日本で一番大事にしたい会社」と題されたその本は、経営者でもあり大学教授でもある坂本光司さんが5社を紹介されたものです。6,000社を超える全国の中小企業訪問を行ったうえでその存在を知らせた内容となっています。坂本さんがこの本を執筆するきっかけとなったのが、日本理科学工業への訪問であったということです。

この書籍の反響は思いもよらないものでした。半世紀にわたり知的障がい者を雇用し、社員の7割が障がい者という老舗のチョーク製造会社の金銭的利益のみを目的にしない姿勢が注目の的になったのです。

全社員の7割が知的障がい者の日本理科学工業

さらに、2008年の11月に、あるテレビ番組に出演した日本理科学工業の大山会長が発した言葉が大きな話題となりました。「障がい者に働く幸せを教わった」と。利潤至上主義だけでは作りえない企業の価値が伝えられたのです。創業者の次男であり1974年から34年間社長を務めた大山康弘会長さんが信じて歩んできた道に光が当たり始めたのでした。

その後も、日本理科学工業は、利益とは相反すると考えられてきたヒューマニズムを併せ持つ特別な会社として、その名を知られるようになりました。「幸せを創造する会社」と呼ばれ、全国から脚光を浴びるこの会社は、現在、4代目社長の大山隆久さんが率いています。80余名いる社員のうち、7割が知的障がいをもっていて、現在の製造ラインで働くほぼすべての従業員は知的障がい者です。そのため、時計が読めない人には砂時計を設置して、一つの作業が終わる時間に合わせて砂の量を変えたり、それぞれの個性や能力にあわせて作業を割り振るなどさまざまな工夫を行っています。従業員たちは口々に「仕事は楽しい」と言ってやりがいを実感しているようです。(「虹色のチョーク」小松成美著、幻冬舎2017年5月)

経営信条は、イエスの教えに通じる経世済民

富の獲得とは別な、未来の経済を実践したいと願った大山会長は、強い信念で理想とすべき社会の形を作り上げたのでした。「人間の幸せは働くことによって得られると、わたしは信じています。『経済』の意味をご存知ですか。中国の古典に登場する言葉ですが、語源は『経世済民(けいせいさいみん)』です。文字通り『世を経(おさ)め、民を済(すく)う』の意味なのですよ」と。(同上著)まさに、人にはそれぞれに役割の違いはあるが、その命に優劣はない、ということを実践なさっている姿がここにあります。

この心は、イエスさまの教えに通ずるものがあるように思います。イエスさまは、外側から確かめられなくても、その内側に隠れながら生きていたはずのその人の心に注目なさるからです。

毒麦の外見は、成長の初めの段階では本物と全く同じ

今日のたとえ話は外見からは全く見分けがつかない麦の話です。それも毒麦です。成長の初めの段階では、本物の麦と区別できないそうです。途中で刈り取ろうとすれば、本物の麦までつみとってしまう危険があるといわれます。

要するに、イエスさまのもとに集まってきた民衆の皆は、それぞれに集まってきた動機があります。一人ひとりに違いがあります。外見は同じ人間です。当然のことでしょう。生きている環境、職種、その他の生きている条件の違いからくる動機づけが異なるからです。当然のこと、外からはその心のうちが見えるわけがありません。それぞれの違いが招く危険は、他人の信仰のあり方を、自分の動機、枠のはかりで量ってしまうことです。その人の言動を批判しがちになってしまいます。いわゆる、他人を裁いてしまうのです。

「裁き」は神の領域、人が行うことは危険を伴う

イエスさまは、「裁き」は神がなさることで、その領域を人間が犯してしまう危険性を、毒麦のたとえ話を通して指摘なさいます。現に、そのような共同体の中では不穏な雰囲気が漂い、殺伐とした人間性が育っていきます。「熱心」という名のもとに行っていることが、共同体の、他者との分裂の因になっていくのです。

むしろ、「わたし」の心の中で隠れて生きているものに目覚めましょう。日本理科学工業で働く知的障がい者が、「集中力」「働く喜び」等を、わたしたちに教え、示してくれました。「人」として、「わたし」のなかにも、外には見えなくても、同じファイトと喜びがあるでしょう。

外見で人を裁かず、温かい雰囲気づくりに努力したい

外見で人を裁かず、むしろ「わたし」自身がイエスさまと出会えているかどうか、じっくりと見つめ、共に温かい雰囲気作りができれば、刈り取る実りの時期に、みんなで喜び合えます。そのための助け合いを求めて生きましょう。